11 ゴータミー尼

ブッダの乳母にして、女性で最初の仏弟子となった尊き方

ブッダの弟子は男性ばかりではありません。優れた女性の弟子達もいました。今回は、女性で初めての仏弟子となった、ゴータミー尼を紹介させていただきます。
ブッダの生母であるマーヤー夫人は、シッダールタ王子(後のブッダ)を産んでからわずか七日後に帰らぬ人となってしまいました。 その後、妻に先立たれたスッドーダナ王は、マーヤー夫人の妹である、マハー・パジャーパティー・ゴータミー(ゴータミーは、姓ゴータマの女性形/以下、ゴータミーと呼びます)を正妃に迎えます。 ゴータミー夫人は王子の乳母となり、わが子と同じく王子を愛し、育てました。
ところが、王子は29歳の年に、いっさいのものを捨てて、一人の出家者となりました。 この時、城に残された、父王や、母ゴータミー、妻のヤソーダラー、まだ幼いラーフラ、家族の哀しみはいかばかりであったでしょうか・・・。

後年、王子は覚りを得て、聖者ゴータマ・ブッダの名は故郷のカピラヴァストウにまで聞こえてきました。そして、釈迦族の若い男たちの多くは弟子となり、ゴータミー夫人にとっては、孫のラーフラだけでなく、実子ナンダ(ブッダの異母弟)までもがブッダの弟子となってしまったのです。
・・・やがて、夫、スッドーダナ王も亡くなり、生きる拠り所を失ってしまったゴータミー夫人は出家することを強く望むようになります。また、彼女と同じく出家を望んでいた釈迦族の女性も多くいたのです。
ブッダがカピラヴァストウに滞在していた時、ゴータミー夫人は思い切ってブッダのもとを訪ね、女性の出家を願い出るのです。
「師よ、私たち女たちも、師の説いた教えと、戒律にしたがい、覚りを求め、努めることを望みます。どうか、私たちの出家を許してください」
「ゴータミーよ、それはできない」

ブッダは、ゴータミーの願いを許しませんでした。
女性の出家は、男性と違い、様々な困難があるからでした。なおも、ゴータミーは三度お願いしたのですが、ブッダは三度とも断ったのです。
悲しくて仕方ない彼女は、泣きながら城に帰っていきましたが、とうとう決意を固め、出家を許されたわけではないのに、その長い黒髪を切って、黄色い衣を身につけたのです。また、彼女と志を同じくする城の女たちも同じ姿になり、南に向かっていたブッダ達一行を追い掛けたのです。

ところが、か弱い女達は男とは異なり、彼女らがヴェーサーリーに着いた頃には、足は腫れ、身体は汚れ、見るに耐えない姿になっていたのです。
そんな疲れ果てた姿の彼女たちが、ブッダの滞在している精舎の門の前に立っていた時、門の中からアーナンダが姿を見せたのです。

「師よ、女子では、男子と同じように、修行の成果を修め、アルハット(阿羅漢・あらかん=迷い無き者=供養を受く者)になることは出来ないのでしょうか」 「・・・可能である」 と、ブッダは答えました。 仏教は四姓平等であり、皆等しくその教えを学び、仏と等しい覚りをえることが出来ると説く教えだからです。
「それでは、師よ、彼女達にも出家を許されてもよいのではないでしょうか。ことに、ゴータミー様は、師をお育てになられた慈母であり、そのご恩多き方ではないでしょうか」 と、アーナンダの熱意のこもった説得に、とうとうブッダも女達の出家を許すこととなったのです。ただし、これまで男だけの集まりであったサンガに、異性である女達が加わることによって色々な混乱や問題が生まれることを恐れたブッダは、

「それでは、アーナンダよ、彼女達が、八つの法を受けることを出家の条件としよう」 と、女達が出家するにあたっての八つの定め(八重法)をもうけたのです。
その八つの定めは、サンガにおいて女性達を守り、集団の規律を守るためでした。アーナンダより、出家の許しを得られたことを聞いたゴータミーは、涙を流し、飛び上がらんばかりに喜び、八つの法を守り、規律を乱さずに一生懸命に努めることを誓うのです。
その後、ゴータミー尼は女性達のサンガのリーダーとなり、そして、多くの優れた女性出家者や女性信者が生まれ、仏教は男女関係なく、その門が広く開かれることになったのです。 

付記・八重法
1.女性出家者(比丘尼・びくに)は、半月ごとに、男性出家者
(比丘・びく)から教えを受けなくてはいけない。
2.比丘尼は、比丘のいないところで雨安居をしてはならない。
3.比丘尼は、雨安居の自恣(じし=反省会)の時、比丘に対して、見・聞きした疑いのある三つの罪を告白しなければいけない。
4.正学女(しょうがくにょ=正式に出家する前の段階の女性出家者=見習い期間)として、二年間修行を終えたなら、正式に具足戒を受け、出家することができる。
5.比丘尼は比丘を侮辱してはならない。在家の人達に比丘の罪を語ってはならない。
6.比丘尼は比丘の罪を挙げてはいけないが、比丘は比丘尼の罪を叱ってもよい。
7.僧残罪(そうざんざい・軽い戒律違反)を犯した比丘尼は、懺悔し、半年間の謹慎生活を送らなければいけない。
8.出家生活の長い、百歳の比丘尼であっても、戒を受けたばかりの比丘と出会った時は、敬礼・合掌しなくてはいけない。
ゴータミー尼によって女性の出家は許されましたが、出家者一人一人に与えられる具足戒(ぐそくかい)は、比丘=250戒に対して、比丘尼=348戒と、女性出家者のほうが守るべき戒律は多く、サンガにおいての女性出家者の修行は厳しいものでした。