8 マハーカッチャーナ

議論第一のマハーカッチャーナ(大迦旋延・だいかせんねん)尊者

ブッダの教えをこと細かに解かり易く説くことに最も優れたお弟子さまでした。 マハーカッチャーナは、中インドの西の地方、ウッジャーニーというところに 生まれました。ウッジャーニーとは、アヴァンティーという国の お城のある町です。 ウッジャーニーには、パッジョータという名の、勇猛な王が いました。性格猛々しい 王であり、近隣の国々からも 恐れられていました。

マハーカッチャーナの お父さんは、パッジョータ王の仕事を 助ける役目を 担っていました。王は、最近にわかに 人々の話題になっている、ブッダ・ゴータマなる聖者が、カピラヴァストウから 現われたことに 強い関心をもっていました。 そこで、王は、かねてより 優秀なる者という誉れを えていた、マハーカッチャーナを ブッダのもとに つかわすことになりました。マハーカッチャーナは 七人の大臣を連れて、サーヴァッティーの 祇園精舎に行くことと なったのです。 初めて出会った ブッダの姿と、その時の 説法を聞いて、マハーカッチャーナは すぐにその場で出家し、ブッダの弟子となったのです。ブッダの言葉は きっと人を惹き付ける 魅力に溢れていたのでしょうね。そうして、ブッダの弟子になり、修行を積んだ マハーカッチャーナは、故郷に帰り、教えを王に説いて、王はブッダに帰依し、仏教は ウッジャーニーの土地にも広まったのです。

「一夜賢者の偈」 ある日、サミッディという ブッダの弟子が、明け方の温泉に ゆったりと浸かっていた時でした。仲間の誰かが 彼の側で 話しかけてきました。

「おい、君は 一夜賢者の偈を 知っているか」 と、サミッディに 問うたのです。 「知らないなあ、どんな教えなんだ」 「ならば、師に尋ねて教わるとよい、大変ためになる教えだよ」 すぐに 興味を持った サミッディは、直ぐに 温泉を出て、ブッダのいる所に 向かったのです。そして、ブッダは サミッディに 一夜賢者の教えを 伝えたのです。

一夜賢者の偈
過ぎ去れるを 追うことなかれ
いまだ来たらざるを
念うことなかれ
過去、そはすでに 捨てられたり
未来、そはいまだ 到らざるなり
されば、ただ現在 するところのものを
そのところに おいてよく 観察すべし
揺らぐことなく、動ずることなく
そを見きわめ、そを実践すべし
ただ今日まさに
作すべきものを熱心になせ
たれか明日 死のあることを知らんや
まことに、かの死の大軍と
遭わずというは あることなし
よくかくのごとく
見きわめたるものは
心をこめ、昼夜おこたることなく
実践せん

かくのごときを、一夜賢者といい

また、心しずまれる者とはいうなりサミッディは、ブッダから教わった一夜賢者の偈の 一つ一つの言葉を、何度も何度も 繰り返し つぶやいては 頭の中に 覚えこみました。そして、次に彼が思ったことは、「よし、次はこの一夜賢者の教えの、一つ一つの言葉の意味を賢き人に教わろう」
そうして、彼は、ブッダの教団の中でも「大哲学者」と言われる、マハーカッチャーナのもとを訪ねたのです。
ところが、そんな彼の依頼に対して、マハーカッチャーナは、
「有り難い申し出だが、ここにはブッダという偉大な方がいらっしゃるではないか」
と言ったのです。
「いや、私は既にブッダから
一夜賢者の偈を 聞きました。これから さらに その意味までを 求めるのは、ブッダの手を 煩わせる事でありますし、高弟の マハーカッチャーナさまなら、わかりやすく
説明をしてくださると思い、訪ねたのです。どうかよろしくお願いいたします。」
頭を下げて お願いをしたのです。その真剣な姿に
マハーカッチャーナは心打たれ、一夜賢者の偈の 一句一句の意味について 説明を始めたのです。 「過去をおうな」とは、「未来を願うな」とは、から始まり、微に入り 細に入り 話し始めたのです。
マハーカッチャーナから、一夜賢者の偈 についての解説を すべて聞き終えた サミッディは、ブッダにそのことを 伝えると、ブッダは喜ばれ、言いました。
「まこと、マハーカッチャーナこそは 賢者である。仲間達は、私の教えについて 詳しい意味を求めるならば、彼に尋ねるがよい。そして彼の言葉を よく記憶しておきなさい。」マハーカッチャーナは、ブッダの教団の中でも、師の教えを ことこまかに分別し、誰にも分かりやすく 解説する営みは 最も優れた弟子として、「論議第一」と 仲間たちから敬われたのです。