第18話 最終話

彼は長い眠りから目を醒ましました。
そこは、ずっと昔に見たような・・・今までずっと暮らしてきた所のような・・・
懐かしいような・・・いつも見ているような景色でした。
川が流れていて、近くに村があって、人々がそれぞれに自分の仕事をしている。
その川に沿った道の真ん中で彼は立って岸辺を眺めていたのでした。
きらきらと輝く水面を眺めながら自分は今まで何をしてきたのだろう・・・
ぼぉっとそんなことを考えていました。

ふと道の方に目を向けると二人の男がこちらに近寄ってくるのが見えます。
すぐ傍に来た二人の顔に彼は間違いなく見覚えがありました。
彼は自分の体を精一杯地面に投げ出し、地面にひれ伏すと 額を土にすりつけ
「お師匠様!」と挨拶をしました。
一人の男が静かに口を開き、
「ピンダカ、久しぶりね。」と笑っています。
もう一人のヒゲをはやした男は
「うむ、たくましくなったのぉ。」と うれしそうに声をかけます。

「御蔭様で毎日を過ごさせていただいております。」
「うむ、そなた、ようやく生きる道が見えたようじゃのぉ。」
「あとね、死ぬ、その後もどうなるかわかったみたいね(^^)」
「はい、お二人のおかげで。」
「念のために言ってみるね。ピンダカ、時々勘違いする。 あと忘れ物もするからね。」
「それはお師匠様もじゃないですかぁ。」
「まったくじゃ、で、どう気付いたのじゃ?」

「はい、私はダルマパーラン師が亡くなられた時、もう私が救われる道は絶たれたと思いました。
それはお師匠様を亡くしたからでございます。
しかし、お師匠様は三択老師様を私にお引き合わせ下さいました。
その時、私は悟りの境地に達した御方は大勢おられることに気付きました。
しかし、三択老師様にも寿命がありやがては死に別れなければならないということに気付きました。」

「そこであなた、人間いつか死ぬこと、心から思ったね?」
「はい。」
「それで苦しみから逃れる術、悟りを求めることは断念したか?」
「いいえ、私はお釈迦様がお亡くなりになられた後にも何人もの方が迷いを乗り越えておられることに気付き、 その方々がどのような生き方をしてこられたかを学びました。」
「うむ、そなたは先達の生涯を体験したようじゃのぉ。」
「はい、そしてお釈迦様の教えはお釈迦様が亡くなられた後もずっと絶えることなく 今日まで伝えられてきたことに気付きました。 またそのことに気が付いた時、人間は死んでしまえば終わるという考えは間違いだったことに気付いたのです。」
「そうね、ピンダカこの間も私がいること感じたね。」
「そうです、でもそこまでは気付けましたが、どうすれば苦しみから逃れられるか迷いました。 また逃れる方法に気付いた途端、自分には不可能だということにも気付きました。 そして、そうしている間にも一歩ずつ死の影が近づいてきていることにも。」
「うむ、焦ったであろうなあ。」

「はい、もうダメだ、救いの道はないとも思いました。 しかしお釈迦様がお見捨てになられるはずがないと思い必死になって釈尊の言葉に何度も触れました。」
「そしたらアミターバのこと見つけたね?スカーヴァティあなたにちょうどいいね。」
「ええ、阿弥陀様の言葉に出会い、その言葉を私のような自分の力で悟れぬ人間のためだということを 善導大師がお説き下さっているのを知りました。」
「法然上人の喜びじゃな」
「それね、世の中で最低の悪い人死ぬ時にアミターバのこと聞いた喜びと一緒ね」
「はい、そう思ったら私は毎日、仏様に守られながら今までに亡くなられた大勢の仏様を信じる人達と共に 一緒に生きているのだということに気付いたのです。」
「よかったのぉ、これでもうわしらが姿を消しても嘆くことはないな。」
「はい、いつもお側にいてくださいますから。」
「じゃ、ピンダカまたね。」
「ええお師匠様、しっかり見守っていて下さいね。私がそちらに行くまで。」