第8話 青年期(王子の結婚)

シャーキャ族の期待を背負い、立派な青年として育ったシッダールタは16歳で結婚をします。相も変わらず、もの思いに耽る王子への心配と、跡継ぎとしての希望が入り混じった、父浄飯王の気持ちが結婚へと導いているのかもしれません。
お相手は隣国のヤショーダラーという王女で、シッダールタの母方の従妹でした。
ここでシッダールタとヤショーダラーの因縁話を紹介いたしましょう。

その昔、燃灯仏(ねんとうぶつ)という仏様がおられました。時の国王は、最大の功徳を得るには、仏様にお花を供えることであると聞き、早速国中のお花を全てお城に納めるよう命じられました。
ある日、雲童子(うんどうじ)という名の青年も、仏様にお花をお供えしようとしましたが、あいにく国王の独占により、花は一本もなく、売ってくれる人もありません。そこへ賢者(けんじゃ)という名の少女が、七本の花を持ってお城へ急ぐのに出会います。雲童子は少女に花を売ってくれるよう頼みましたが、賢者も「このお花は国王のご命令でお城へ納めなければならないから」と言って売ってくれません。
雲童子は色々懇願して、遂には自分の全財産を差し出し、ようやく五本の花を譲り受けることができたのです。
賢者が、財を投げ出してまで花を求める理由を尋ねると、雲童子は仏様にお花を供えることが最大の功徳になるという話をしました。すると賢者は大変感激して「自分も残れる二本の花を仏様に献上したい」と、二人してお城ではなく仏様の前にお花をお供えしました。

国王もまた、お城に集められた数多くの珍しい花々を仏様にお供えしましたが、不思議なことにそれらは数日にして枯れてしまいました。
ところが雲童子と賢者の二人が、真心を込めてお供えをした七本の花は、いつまでも色鮮やかに輝いていたのです。

この縁が良縁となり、二人は夫婦となり互いに助け合いながら仲良く暮らしました。
そして後の世に、雲童子はシャーキャ族の王子、一方賢者は隣国の王女として生まれました。それがシッダールタとヤショーダラーなのです。二人はまたもや夫婦となられたのでした。


第9話 青年期(ラーフラの誕生)

シッダールタがヤショーダラーを妃に迎えたのは16歳の頃だったと伝えられています。それから時を経て、お二人の間に男の子が産まれました。

王統を継ぐ子が誕生したのですから、王子が産まれた時と同じくらい周囲は喜びに包まれたことでしょう。

男の子にはラーフラ(羅睺羅)という名がつけられました。ラーフラには「つなぎとめるもの」という意味があります。

もの思いに耽るシッダールタの行く末を案じていた父浄飯王は、
「この子はシッダールタを王城につなぎとめる。これで出家への心配はないであろう。あとは我が子が偉大な王となることを望むだけだ」
と、孫のラーフラを眺め、大いに期待したのでした。

一方で、お城で栄耀栄華を尽くしていても、日頃から心を閉ざしている彼のことです。
シッダールタにとって、ラーフラの誕生は「自分をしばりつけるものが、またひとつ増えた」という気持ちにさせるものでもあったのです。

子が誕生した喜びもあったようですが、複雑な心境にあったようです。

彼が本当に求めているのは何だったのでしょうか。